四. すしの名脇役
主役である、すしを引き立たせる名脇役、これにも様々な役割があります。
01. 笹と葉欄
すしの盛り込みや折詰などに江戸前ずしは笹、関西ずしには葉欄が使われます。笹は古くから殺菌作用や断熱作用が知られていて、すしにも使われるようになったと考えられています。それと同時に、笹の緑がすしダネの彩りを一層引き立てることから欠かせないものになりました。笹は切ってから時間が立つと萎れてくるので、笹が萎れないうちにお召し上がりくださいという職人の心づかいも託されています。それだけでなく、笹には飯粒や煮つめが他のすしにつかないように、違う種類のタネがついて変色したりしないように、また折箱のにおいがついたりしないようになどの働きがあります。
葉欄はユリ科の植物で、古くから料理の盛りつけや下に敷くかい敷として用いられてきました。葉欄は笹と違って、時間がたっても縮れないので、時間をおいても味の変わらない関西ずしによく合っています。また、料理やすしを盛る器代わりにも使えます。
02. 酢
すしの基本となる味は米であり、そのおいしさを支えているのが酢にほかなりません。酢は魚の生臭みを消してくれるほか、酢のサク酸は人の気分を落ち着かせ、疲れを癒すのに有効に働くといわれています。
03. 伝統的な赤酢(粕酢)
にぎりずしの誕生と時を同じくして生まれたのが粕酢です。粕酢は清酒の醸造時にできる酒粕を原料にした醸造酢。酒粕を長く熟成してから酢に発酵させたものほど酸味がまろやかで、香り、甘み、うま味などの風味があり,赤くなります。これを赤酢と呼んでいます。すしに用いるとすし飯が赤くなりますが、コクのある風味がすしにはよく合います。
04. 塩と砂糖
すし飯の合わせ酢には、酢のほか塩や砂糖が使われます。塩と砂糖は酢の酸味をやわらげる性質を持っており、酸味のバランスをとり、すし飯をおいしく感じさせます。しかも、すしダネの鮮度や風味の欠点もカバーしてくれて、すし飯のデンプンが老化してパサつくのを防ぐ効果もあります。
05. わさび
「さびのきいた」といわれるようにすしにわさびはつきものです。わさびの働きは、ツンとくる特有の辛みと香りで味覚を一時的に麻痺させて、魚の生臭みを感じさせないことにあります。このわさびの辛み成分はすりおろして、空気に触れさせることで生じてきます。そこで、目の細かいおろし金でゆっくりとすりおろし、十分に空気に触れさせる必要があります。
わさびには本わさびと粉わさびの2種類があり、生のわさびをすりおろしたものを「すりわさび」、粉わさびを練ったものを「練りわさび」と呼んで、区別しています。
06. ガリ
ガリもわさびと並ぶすしには欠かせない薬味です。わさびはその強い辛みの働きで瞬間的に人の味覚や嗅覚を麻痺させ、魚の生臭みを感じさせないようにしますが、臭みそのものは消してくれません。これに対して、生姜を甘酢に漬けたガリは辛み成分であるジンゲロンやショーガオールなどが魚の生臭み成分と結びついて消してしまいます。そのため、一つのすしから他のすしへと食べていく際に、ガリをつまむと前のすしの味を消し、口の中をさっぱりとさせてくれる口直し効果があるのです。また、生姜には細菌の繁殖を抑える効用もあります。
07. お茶
すし店ではお客様が席に着くと最初からお茶を出しますが、これはすしを食べたあとに口の中に残る魚の味をお茶で洗い、次のすしを新鮮に味わせるという目的からです。
また、すしは食塩を多く含むため、喉が渇きやすくなります。それを癒すためにもお茶が必要とされます。すし店の湯のみ茶碗が特に大きいのは、熱いお茶をたっぷりと注げるからです。
08. 醤油
にぎりずしに添えられるつけ醤油は、魚の生臭みを消すのに非常に大きな役割を果たしています。醤油特有の香気成分が不快な臭いを消してくれるほか、白身のような淡白なすしダネには味や風味にアクセントがつきます。
09. 海苔
焼いた海苔の香りとツヤ、パリッとした歯ざわりの良さは、江戸前の巻ものの魅力の一つです。海苔には多くの臭気成分が含まれており、焼くことによって特有の香りが生じます。また、旨み成分も多く、だし材料に使われるカツオ節や昆布、椎茸に含まれているのと同じイノシン酸やグルタミン酸、グアニル酸が含まれています。さらに、血圧降下や動脈硬化症などにいいとされるタウリンも多く、これが海苔の香りの良さに大きく関わっています。
10. 竹皮
関西ずしではサバの棒ずしなどを竹皮で包んで販売されます。これは、味の馴れを待つ意味があります。馴れとはすしダネのうまみ成分がすし飯にじわじわとしみていくことで、別々の食べ味であるタネとすし飯が馴染んだ状態をさしています。このときに大切なのが、できるだけ空気を遮断させ、すしの酸化を防ぐことです。その役目を果たしているのが竹皮であり、あるいは桶に詰めて密封するという作業です。